その日、私がN先生、O先生と校舎内を歩いていたところ、不意にN先生が声を発した。
「まさか、一人で行ってきたの!?」
怪訝な表情でN先生が見た先には、F氏がいた。
「勿論」
そう言うと彼は親指を立て、日焼けした肌に映える白い歯を見せて爽やかに去っていった。
どうやら、F氏がとある場所から一人で出てきたことでN先生が驚いた様子だった。
その日以来、私はF氏が出てきたその場所が一体何なのか気になり、心ここにあらずの
日々を過ごしてしまった。
そのうち、気になって眠れない日が続くようになってしまったので、私は事務室が静まった
夜、勇気を出してF氏に尋ねたのだった。
「Fさん。この間N先生が驚いていた時に出てきたあの場所、一体何があるんですか?」
緊張のあまり喉が渇き、上ずった声で尋ねる私とは対照的にF氏は落ち着いていた。
「ああ、あそこですか・・・。気になるんですか?」
「はい。あの日から気になって眠れない夜が続いています」
するとF氏は普段の爽やかな笑顔からは想像もつかないほど険しい表情を見せ、静かに言った。
「あそこは・・・、選ばれし者だけが行けるんですよ」
「選ばれし者?では、Fさんはその選ばれし者なんですか?」
真剣に語るF氏
F氏は無言でゆっくりと頷いた。
「それじゃ、私は行けませんよね」
私はがっかりし、その場を去ろうとしたその時、F氏は呟いた。「行ってみますか?私と一緒なら行くことができます。ただし、命の保障はしませんよ」
F氏の表情は決して冗談を言っている感じではなく、武将のごとく鋭い眼光が光っていた。
私は期待と恐怖で高鳴る心臓を落ち着けてから答えた。
「お願いします。Fさんとなら何も怖くありません」
「よかろう、ついてきなさい」
その場所は普段は学生で賑わう学院の片隅にあり、学院の明るさの中でひっそりと存在していた。
そんな危険な場所を勇者のサスマタを持った頼もしいF氏はズンズンと私の前を進む。
そこには数々の開かずの扉があり、一種独特の雰囲気をかもし出していた。
すっかり萎縮して腰が引けている私に、F氏はそれぞれの扉について語る。
「ここは、地球の反対側のブラジルに通じているらしい・・・」
「ここはリハビリテーションの秘伝書や奥義書がしまわれているらしい・・・」
「ここにはド〇ゴンボールが・・・」
その時、F氏が突然叫んだ。
「何者だっ!!」
F氏は奥に向かって勇者のサスマタ勇ましく構えた。
F氏が叫び、空気が張り詰める
何者かと激しい戦いを繰り広げるF氏の勇姿
目を覚ますと私は事務室で寝かされていた。
「大丈夫ですか?」
「はい、何かすいませんでした」
「いえいえ、それにしても勇者のサスマタを持っていってなかったら、二人とも危なかったですよ」
「そうなんですか・・・」
「くれぐれも今日のこととあの場所のことは内緒ですよ」
「わかりました」
今でもF氏の頼もしい後姿と鈍い光を放つ勇者のサスマタを私は忘れられない。
これを読んだ皆さん。もし選ばれし者の領域を見つけても決して足を踏み入れないで下さい。
To be continued...
*これは思いっきりフィクションなので実在の人物、場所等とは一切関係ありません。